楽楽風塵

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トマ・ピケティ『資本とイデオロギー』――「はじめに」

トマ・ピケティ『資本とイデオロギー』(2023、みすず書房)を読み始めた。 www.kinokuniya.co.jp 1000ページ超の大著である。暇を見つけて読み、少しずつメモしていく。 先に断っておくが、前著『21世紀の資本』は未読。『資本とイデオロギー』はそれを下敷…

カルティエ財団現代美術館『ロン・ミュエク』

パリのカルティエ財団現代美術館に行ってきた。 モンパルナスに位置し、全面ガラス張りで庭園付き。ド派手な美術館が並ぶパリの中ではかなりこじんまりとしているのが特徴だ。ざっと1時間足らずで回れるだろう。 展示されていたのはオーストラリア出身の現代…

ブログ、ちょっとずつ再開します

ブログをちょっとずつ再開していきます。 以前のように長文で綴るのは難しそうなので、ちょっとずつ読んだ本や映画などを備忘録として記録していければなと。

東日本大震災から9年後の福島を歩く いわき編

2019年3月、思い立って福島に二泊三日の旅行に行った。 実は東北に足を踏み入れること自体が今回初めて。思い返せば、東日本大震災が起きた2011年はまだ高校生だった。当時、部活が終わってケータイを確認すると、原発から煙が出る映像を目の当たりにし驚愕…

ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

ブレイディみかこさんの新刊をようやく読んだ。 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 作者:ブレイディ みかこ 発売日: 2019/06/21 メディア: 単行本 以前、『子どもたちの階級闘争』の書評を書いたことがあるが、本作はあの時代からの経年変化として…

村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』、すべての走り屋に捧げるバイブル

走ることが好きだ。 最低でも一週間に一回は走らないと、身体がちぐはぐしてくる。一週間まったく走らなかった週と、1キロでも走った週とでは明らかに身体のパフォーマンスが違う。走らなかった週は、なんだか歩いていても地面と足の裏が上滑りしている感じ…

岸政彦『マンゴーと手榴弾』

岸政彦の『マンゴーと手榴弾ーー生活史の理論』を読んだ。 マンゴーと手榴弾: 生活史の理論 (けいそうブックス) 作者:岸 政彦 出版社/メーカー: 勁草書房 発売日: 2018/10/30 メディア: 単行本 目次は以下の通り。 はじめに マンゴーと手榴弾ーー語りが生ま…

ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』※ネタバレあり

韓国の鬼才、ポンジュノ監督の新作『パラサイト 半地下の家族』を観た。 映画『パラサイト 半地下の家族』オフィシャルサイトwww.parasite-mv.jp ポン・ジュノ監督作品はそんなに観たことがなく、『グエムル』と『スノーピアサー』ぐらい。どちらも韓国特有…

2019年映画ベストテン

2019年公開の映画でベストテンを作ってみた。 振り返ってみると、今年はNetflixに加入したのが大きかったなと思う。Netflix公開の良作が量産されはじめているので、劇場に足を運ぶ機会が少なくなった私としてはかなり嬉しい時代になったなと感心する。 けど…

梶谷懐・高口康太『幸福な監視国家・中国』

2019年読んで面白かった本、第二弾。 幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書) 作者:梶谷 懐,高口 康太 出版社/メーカー: NHK出版 発売日: 2019/08/10 メディア: 新書 中国の高性能監視カメラ、新疆ウイグル自治区での強制キャンプなど、日本でもその監視国家ぶ…

ケン・ローチ "Sorry We Missed You"(邦題『家族を想うとき』)※ネタバレあり

ケン・ローチの最新作"Sorry We Missed You"を見た。 www.youtube.com 結論から言うと、本当にやるせないストーリーだった。前作『私はダニエル・ブレイク』と比べて、かなり希望を削ぎ落した仕上がりになっている。それぐらい監督の現実に対する切迫感や危…

綿野恵太『「差別はいけない」とみんないうけれど。』

2年越しの懸案事項(修論)が無事着陸態勢に入ったので、ぼちぼちブログを再開します。 この2年間、だいぶ世情に疎くなってしまったと思う。というのも、修論執筆中はほとんどそのテーマに手いっぱいで、例えば記事やニュースを追っていても、そのテーマを中…

ブルデュー・ライール読書会まとめ

P・ブルデュー『ディスタンクシオン』、B・ライール『複数的人間』『複数的世界』、T・ベネット他『文化・階級・卓越化』の読書会をしたので、その中での論点をまとめる。私なりに解釈したこの研究会の趣旨は、まずは①ブルデュー理論を理解すること、②ブルデ…

【香港現地レポート】「2000000+1」ーー「逃亡犯条例」改正反対デモとそれぞれの「香港」

最近、香港に関するニュースを見ない日はない。言うまでもなく、香港政府が改正を急ぐ「逃亡犯条例」をめぐって、連日香港市民の抗議デモが多発しているからだ。 すでに、日本でも香港のデモを詳細に分析した記事やレポートは数多く提出されている。なので、…

いま、香港で何が起こっているのか

「なに?アグネス・チャンが来てるの?」 6月12日、明治大学リバティタワーの一階教室の前を通る学生たちは、そう口にしながら野次馬の中に加わっていた。教室の前には、報道機関も含めて通常の授業ではありえない数の人だかりができていたからである。もち…

遅塚忠躬『史学概論』

脱線して歴史学のお勉強。読み進めたところまでをまとめたい。 史学概論 作者: 遅塚忠躬 出版社/メーカー: 東京大学出版会 発売日: 2010/05/01 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 11回 この商品を含むブログ (6件) を見る 第1章は「歴史学の目的」と題さ…

アートを社会学に応用するということ

先日、研究会に参加して抱いた雑感を綴りたい。 研究会の内容ももちろん興味深かったが、それ以上に考えをめぐらしたのが「アートを社会学(あるいは社会科学)に応用することは可能か」「人文学を社会科学に組み込むことは可能か」という問いである。結論を…

『ブラック・クランズマン』※ネタバレあり

週末、スパイク・リー監督の新作『ブラック・クランズマン』(原題:BlacKkKlansman、ちなみに本作は実在の人物であるロン・ストールワースの著作『Black Kransman』をもとに作られた。Kの間に小さな「k」を入れるというのはリーのアイデアだろうが、けっこ…

メモ:社会運動論におけるフレーム分析

社会運動論におけるフレーム分析について。 主に、Benford, Robert D. and David A. Snow, 2000, "Framing Processes and Social Movements: An Overview and Assessment," Annual Review of Sociology, 26: 611-39. および、樋口直人『日本型排外主義ーー在…

カス・ミュデ&クリストバル・ロビラ・カルトワッセル『ポピュリズムーーデモクラシーの友と敵』

ポピュリズム:デモクラシーの友と敵 作者: カス・ミュデ,クリストバル・ロビラ・カルトワッセル,永井大輔,?山裕二 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2018/04/03 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 本書はオックスフォードのVery Short Int…

社会運動論の系譜

わけあって社会運動論の系譜を整理中。 社会運動のサブカルチャー化―G8サミット抗議行動の経験分析 作者: 富永京子 出版社/メーカー: せりか書房 発売日: 2016/10 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (6件) を見る 社会運動論の分析枠組みについて、割と…

ブルーノ・ラトゥール『社会的なものを組み直すーーアクターネットワーク理論入門』①

今度の研究会に向けて、ブルーノ・ラトゥール『社会的なものを組み直すーーアクターネットワーク理論入門』について。 社会的なものを組み直す: アクターネットワーク理論入門 (叢書・ウニベルシタス) 作者: ブリュノラトゥール,Bruno Latour,伊藤嘉高 出版…

梶谷懐著『中国経済講義ーー統計の信頼性から成長のゆくえまで』

春の積読解消祭り第一弾。梶谷懐著『中国経済講義』について。 中国経済講義-統計の信頼性から成長のゆくえまで (中公新書) 作者: 梶谷懐 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2018/09/19 メディア: 新書 この商品を含むブログ (5件) を見る 『日本と中国…

岡本太郎記念館

先日、岡本太郎記念館に行ってきた。 小田実じゃないけど、「なんでも見てやろう」という意気込みで東京にいる間にできるだけ美術館や展覧会を見ておこうと思っているのだが、最近は忙しくてご無沙汰だった。 久々に行ってみて、やっぱりアートはいいなと再…

「戸籍」とは何かーーその機能と役割について

戸籍にはいかなる機能があるのか。遠藤正敬『戸籍と国籍の近現代史ーー民族・血統・日本人』の第一章をもとに簡単に整理してみたい。 戸籍と国籍の近現代史――民族・血統・日本人 作者: 遠藤正敬 出版社/メーカー: 明石書店 発売日: 2013/09/30 メディア: 単…

Paul Starr "the Sociology of Official Statistics"

Paul Starr, 1987, 'The Sociology of Official Statistics' William Alonso and Paul Starr eds. "The Politics of Numbers", New York: Russell Sage, 7-57. という論文をまとめる。 The Politics of Numbers (Russell Sage Foundation Census) 作者: Will…

大阪なおみ選手と「ハーフ」をめぐる言説について

今週、大阪なおみ選手の全米オープン優勝のニュースが駆け巡った。それ自体は非常に喜ばしいニュースだが、そのニュースをめぐって様々な言説が吹き荒れている。ここでは、そのニュースについての雑感などをまとめてみたい。 大阪なおみ選手優勝のニュースは…

Rogers Brubaker "Nationalism reframed: Nationhood and the National Question in the New Europe"

Nationalism Reframed: Nationhood and the National Question in the New Europe 作者: Rogers Brubaker 出版社/メーカー: Cambridge University Press 発売日: 1996/09/28 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログ (3件) を見る 今回は、Rogers Bru…

メモ:Tseng Yen-Fen and Wu Jieh-Min "Reconfiguring citizenship and nationality: dual citizenship of Taiwanese migrants in China"

今回は、Tseng Yen-Fen and Wu Jieh-Min,2011, 'Reconfiguring citizenship and nationality: dual citizenship of Taiwanese migrants in China',"Citizenship Studies"15(2): 265-282.の要約である(訳せば「シティズンシップとナショナリティを再構成…

クリスチャン・ヨプケ『軽いシティズンシップ』

今回はクリスチャン・ヨプケ『軽いシティズンシップ』のレビューを書く。 軽いシティズンシップ――市民、外国人、リベラリズムのゆくえ 作者: クリスチャン・ヨプケ,遠藤乾,佐藤崇子,井口保宏,宮井健志 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2013/08/28 メディ…