楽楽風塵

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岡本太郎記念館

 先日、岡本太郎記念館に行ってきた。

 小田実じゃないけど、「なんでも見てやろう」という意気込みで東京にいる間にできるだけ美術館や展覧会を見ておこうと思っているのだが、最近は忙しくてご無沙汰だった。

 久々に行ってみて、やっぱりアートはいいなと再実感した次第です。

 

 今回、「行きたい美術館リスト」の中でそんなに上位にあるわけではなかった岡本太郎記念館に行った理由は、ある作品を見たかったからである。

  岡本太郎と聞いて多くの人がまず連想するのは、「芸術は爆発だ」といった名言やあの奇抜でヘンテコな造形の絵画・モニュメントの数々だろう。実際、私もそれぐらいの知識しかなかった。

 現在、岡本太郎記念館では、これまで注目されてこなかった彼のもう一つの側面にスポットライトを当てた企画を行なっている。それが『太郎は戦場に行った』である。

 同企画展は、太郎が1942年から4年半戦地に赴き、そこで見たもの感じたものをまとめた手記などからインスピレーションを受けた現代芸術家の弓指寛治さんの作品を展示している。

 中でも感動したのは、「白い馬」という作品である(ちなみに作品は全て撮影OK)。

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 この作品は、戦地で実際に白い馬の死体を見たという太郎の体験談をもとに描かれたものである。以下は太郎の「白い馬」の記述である。少し長いが、情景を想起できるように引用してみたい。

 戦争中、中国の前線にいた。私の人生で、もっとも残酷に、辛かった時代である。軍隊では、私の生き、信じてきたモラルとはすべてが反対だった。なま身をひきちぎる、逆の噛み方で時空の歯車が回転していた。

(中略)

 大陸の夜は深い。信じられぬほどの静寂のなかに、一人、銃剣をかまえて歩きまわっている。すると、何処からか、ザアッと水の流れるような、異様な音が聞こえてくる。

 何だろう!

 音をたよりに、行く。ふと見ると、真白な馬。

 夜空に向かって首をあげ、前脚を突っぱってのけぞっている。悪路の行軍のはて、ついに力つきた軍馬の死骸である。

 全身から真白にウジがふき出し、月光のもとに、彫像のように冷たく光っているのだ。

 ウジのうごめく音が、ザアッと、低いすさまじい威圧感でひびいてくる。鬼気せまるイメージだ。

 生きものが、生きものを犯す。生きるために。そしてその肉をまた強者が食う。今おびただしいウジが、肉の巨塊をなめつくしているのだ。

 ザワザワと不気味な音をたてながら。

 太郎は戦地で見たその光景に、「ザワザワ」という音を聞きとり、そして繰り返される生命の営みを悟った。この体験は多分にその後の作品作りに影響を与えたことだろう。

 弓指はこの手記をもとに上の作品を手がけた。

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 近寄って見てみると、その緻密さが分かる。巨大な馬に群がるウジ。

 

 一見の価値あります。ぜひ、来訪してみてください。

 あと、もう一つ、太郎とジャズに関する企画もやっています。「芸術は爆発だ」という言葉からも分かるように、太郎は未来も過去も越えて「今この瞬間」を生きることを目指していた。そんな彼が「即興と対話」を旨とするジャズに共感を抱いていたというのは面白い。

 

 その他、撮影した作品を列挙。

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