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回顧主義的ロマンチストと現実主義的ニヒリストの葛藤 『ラ・ラ・ランド』※ネタバレあり

『ラ・ラ・ランド』見ました。簡単に雑感をつづります。

映画『ラ・ラ・ランド』公式サイト

 

 

二年前(だったけ?)『セッション』で一躍映画界の新星として登場したデミアン・チャゼル監督の最新作。今年度アカデミーでも最多ノミネートで話題になっていたのでかなり期待してました。

結論から言うと個人的に好みの作風ではなかったし、どちらかというと前作『セッション』のほうが好きだけれど今作を見て、なんだか監督がやろうとしてること、最近のアカデミーが求めている傾向みたいなものが分かった気がする。

 

今作は簡単に言うと「夢」に関する映画。これだけいうとフロイト的な精神分析論や崇高なSFのように思うかもしれないがそんな堅いものではない。要は「夢」っていう言葉には眠りについて頭の中で見るものと「将来の夢」みたいなニュアンスのものとの二つの意味が含まれている(これは日本語にも英語にも両方ある含意である。不思議。)。今作はその二つの意味を踏まえると非常に面白くなる。

今作の主人公の二人はどちらも理想を求めて、夢見ている。例えばエマ・ストーン演じるヒロインは叔母の影響で子供のころから女優になることを夢見ているし、ライアン・ゴズリング演じるセブは本物のジャズ・ピアニストになることを夢見てくすぶっている。ある意味では「理想ばかり追い求めて現実を見ていないロマンチスト」と言われて馬鹿にされそうな感じである。しかし、いろんな経緯もありつつ最終的には結果オーライで彼らはどちらも望みの方向に進むことができる。

ここだけ聞くと「昔のアメリカ映画によくあるパターンのご都合ストーリーね」って思うだろう。確かに昔の(大体40,50年代ごろの)アメリカ映画、とくにミュージカル映画というのは底抜けに明るくて、見ていて「それはないだろ(笑)」となるようなもの少なくない(『ウェストサイド・ストーリー』や『雨に唄えば』なんかを思い出してもらえるとよい)。

だからこそ監督は今作でミュージカルという手法を採用したのではないかと思う。見たことがある人ならわかるだろうが、ミュージカル映画というのは普通の会話の途中からいきなり歌いだしたり、踊りだしたりなかなか現実離れした演出を使う(それはミュージカルというのが「映画」というよりは「劇」に近いからだが)。それは一種、劇という「ハコモノ」(つまりは夢)の中のストーリーであり現実にのっとった演出などは必要ない、むしろ現実がこんなにも残酷なんだから劇中だけでも幸せなものを見たいという昔のミュージカルの雰囲気があるからなのだろう(もちろんそれに反対してシリアスなミュージカルものちに出るが)。

今作は「そんな時代の空気を取り戻せ!」と言わんばかりに黄金時代のハリウッド・ミュージカル映画の手法をオマージュしている(ちょっと時代錯誤じゃないかと思うほど)。物語の舞台がハリウッドということもあるのだろう、昔の舞台のセットや原色カラーの衣装、二人の空へ浮遊するシーンなどまるで夢を見ているように楽しい気持ちになる。しかし、それこそが本来のミュージカルの楽しみ方であり、その楽しさに回帰してみようと監督自身が意図して作っているように思うのだ。

本作の主人公であるセブはジャズピアニストであり、彼は王道の方法でジャズのすばらしさを世間に普及しようと考えている。これはおそらく監督自身の考えにリンクしている。前作の『セッション』の時に明かしていたように、監督は自身もドラム経験者でありジャズに造詣が深いそうだ。セブはかつての友人に「ジャズは死のうとしている」と語る。そして王道ジャズで勝負するという夢をあきらめた友人に反対してやはりジャズの道を突き進もうとする。これはまさに監督自身のジャズおよび映画への態度を表している。ごちゃごちゃこねくり回したり、新しいものをミックスしたり、現実的でジャーナリスティックな意味を映画(前回のアカデミー作品賞は『スポットライト』)に付与するよりも温故知新で昔に原点回帰しようとする考え方だ。

映画を見た後の感想を見ていたら、「なんだが、主人公二人だけしかスポット当たってなくて残念」みたいなものもあったけどそれは当然。これは二人だけのサクセスストーリー、いわば二人の夢であり、ほかの第三者の視点なんかはそんな夢を妨害するものでしかないのである。夢を追いかけている人は得てして周りが見えなくて夢見心地な考えをしている人が多いが今作はそんな二人の頭の中を覗き込んでいるような感覚だった。題名の『LA・LA・LAND』ってのいうのも、いわば「国、世界」、二人だけの理想郷を作ろうっていう意味も含意しているように思える。

だからこそあのラストは何だが肩透かしを食らったというか、やはり監督のニヒリズムが抑え込めていないような印象を受けた。まあこの監督自体、前作を見る限りラストにあいまいで観客に考えさせる終わり方を持っていくことが好きな作風だが、今回も「俺が何をやりたかったか分かるかい?」的な終わり方にしてる感じ。だがとりあえず私の個人的な印象としては回顧主義的なロマンチズム(ジャズや王道ミュージカルへの回帰、ハッピーエンド)と現実主義的なニヒリズム(すべて夢みたいにうまくいくとは限らない苦々しいラスト)の間で監督自身葛藤してるんじゃないかというふうに感じた。

 

とまあ、ミュージカル映画のこの「底抜けの明るさ」「ハッピーエンド」を逆手に取った作品というのはほかにもあって、中でも『ダンサー・イン・ザ・ダーク』なんかはそれ系の中では断トツ傑作なんだがそれに比べたら今作は見劣りする感じ。個人的にはアカデミー作品賞取るまではないだろうと思っているのだが、すでに下馬評は『ラ・ラ・ランド』に軍配が上がっているようだ。さてどうなることやら。

 

Ost: La La Land

Ost: La La Land

 

あと、内容の話はさておき劇中で使われていたサウンドトラックはどれも素晴らしい。しかも前作『セッション』でも感じたが、この監督の「音楽の良さを映像で表現する」カメラワークはかなり秀逸。縦横無尽、アップ、上下、様々な角度を駆使したカメラワークで映像表現の幅を広げようとしている感じがして、さすが音楽をやってきた監督だなと感心した。