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橋口亮輔『恋人たち』 苦さ9割、甘さ1割

かなり久しぶりにTSUTAYAでレンタル映画鑑賞。

 

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橋口亮輔監督作品『恋人たち』(2015)。二年前の作品だけど当時から劇場公開を逃して、ずっと見たくて仕方なかった作品。

橋口監督は『ぐるりのこと。』が初鑑賞作品だったんだが、その時心をわしづかみにされずっと追いかけていた。彼の描く人間像がどうしても自分及び自分の周りのだめな人間たちを連想させ、これが映画であることを忘れさせるほど作品に没頭していた記憶がある。リアリズムを追及し、ドキュメンタリータッチの作風は少し是枝監督なんかにも似てるかもしれない。

 

今回の『恋人たち』もそんな橋口節は健在で、どこまでも残酷な現実を淡々と描いていく。ストーリーの9割ぐらいは胸がふさがる思いで見ているのだが、やはりこれは監督のうまいところで、1割ほどユーモアを混ぜることでそれがオアシスのように心を穏やかにしてくれる。

劇中でも言及されているように日本は来たる2020年東京オリンピックに向けて現在着々と準備を進めている。監督はおそらくそうやってみなが上を向いて未来に向かっていく時代の片隅で蟠りを抱えたままくすぶっている人間がいる現状にスポットを当てたかったのだろう。

妻を突如通り魔事件で亡くし自暴自棄になっている夫、家庭の不透明な閉塞感から抜け出したいと願う主婦、ゲイであることを告げたことにより友人とギクシャクする弁護士。彼らはそれぞれ大なり小なり悩みや憂鬱さをかかえている。それは誰しも同じことだ。ただ彼らに足りないものはその苦悩を聞いてくれる人間(恋人たち)が周りにいることに気づかないことなのかもしれない。

特に妻を殺されたアツシは犯人を殺すこと、またはせめて慰謝料を支払ってもらうことを生きがいとしている。生活は全く豊かとは言えない。死んだように生き、町中の幸せなカップルを見てその幸せさに嫉妬し、自殺しようとしても恐れから死ぬことすらできず、妻の墓前に懺悔する。

しかし、彼の周りの人間はたびたび彼のSOS信号を受け取り、助け舟を出してくれている。ただ悲しいかな、人間は追いつめられると一人になろうとしてしまうものでそれにすら気づかないのである。

 

橋口作品の中では一番見てて辛いものがあるが、こういう現実があることを再確認すべきだなと思う。幸せな時はそのことを忘れるし、作中の登場人物たちのような状況に陥った時にこの作品を見たらたぶん救われた気持ちになると思う。